『慶応三年生まれ七人の旋毛曲り』なる書がある。夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾口紅葉、斎藤緑雨。この七人と生きた時代を坪内祐三が綴っている。この七人を旋毛曲りとすれば、対する実直な?すなわち旋毛がまがっていない七人とは誰々だろう。僕はまず三人が思い浮かぶ。柳田國男、田中正造、森鴎外。どうだろう?
さて、旋毛曲りのほうの宮武外骨の代表作といえば「滑稽新聞」である。明治41年に発禁処分となっている(外骨にとっては何十回めかのことで珍しくはない)、確か。
借りっぱなしで明日おそるおそる返しにいく『松江八百八町町内物語〜白潟の巻』は昭和30年の発刊だが、その中に次の一文がある。
一文字屋の有名な売子「熊さん」も往年の松江駅の名物であった。「ビール、正宗、アンパン、ベントー。マツチェ(松江)八景、滑稽新聞」と声高に連呼する声は人をほほえまさないではいなかった。
執筆子は「滑稽新聞とはどんなものであるかよくわからないが、新聞は松江橋のたもとでまとめて立売しているのをよく人々は買うのであった」としている。松江駅の開業が明治41年11月であるから、「滑稽新聞」が売られていたかどうは微妙だが、「大阪滑稽新聞」のことであろうか。あるいはヒットにあやかった類似紙も多数あったらしいから、それらのどれかだったのかもしれない。