クサギナを採って煮て干す

クサギ。シソ科の低木で、夏に咲く花は、ジャスミンに似た香りを漂わせる。草木染めではおなじみの植物であって、青がとれるのは藍とこのクサギだけだ。珍しい植物ではないが、そうひんぱんに見かけるものでもない。そのクサギ。焼畑をしている奥出雲町佐白のダムの見える牧場内で、最近多く見かけるようになった。いくつか思いあたる節はあるものの、なぜかはよくわからない。ただ、ほんとうに、あそこにも、ここにも、というようにどこにでもある。成育も早く、あっという間にいちばん目立つ樹になってきた。仕事の手を休め眺めていると、思うのである。食えたらいいのになあと。人として自然な感性の発露ではあろう。
そして、食えるのだ、実際。食えるということはわかっている。問題はいかにして食うか、である。
同時に気になることがあった。紙とウェブを問わず、やたらと「臭いからクサギ」「悪臭」「なんでも食べるウサギもこの木だけは食べない」という記述が並びたっている。おそらく、食べたことも、嗅いだこともんなく、どこかで書かれたものをそのまま写してしまうからであろう。それら記事のなかでも、実際、食べたことのある人は「それほど強い臭いではないし、もっと臭い木はある」というトーンとなる。
私も、最初はおそるおそるちぎって嗅いでみたものだが、独特の香りはあるものの、悪臭であるとは全く、本当に全く思わなかった。件の記述を拾うなか、理由として次のことを考えた。

1. 臭いに対する個人差……いやがる人とそうでない人がいる。どんなものもそうだろうし、あるだろう。
2. 季節による……山菜としてとるのは6月までのようだ。夏・秋には臭いがきつくなるのかもしれない。私も夏・秋にはちぎっていないので、確かめてみよう。
3. 煮るときには匂う……実は2日ほど前に試してみた。臭いはしますが、臭いとはとうてい言えない。むしろ好感。どこかで嗅いだことがあるなあと。シソ科ゆえに、赤しそに似ている気がする。
4. 昔ほど匂わなくなっている!……及川ひろみさんのコラムで言及されている。cf.《宍塚の里山》49 美しい花を咲かせる「クサギ」は臭いか

それはさておき、食うために、である。
出雲圏域で郷土食資料をざっくり縦覧した限りでは、奥出雲の横田地区にみられる程度であるが、県境をまたげば、広島県岡山県の山間部には食習の残るところも多い。道の駅でふつうに売られているらしいとも。確かめる機会は夏にと思う。食欲増進にいいようで、夏バテ解消にもなるかもしれん。

採取の仕方、調製の仕方に、さほど大差はない……ともいえるが、「10時間ゆでる」から「さっとゆでる」までの幅はある。そのあたり捨象しながら、以下のように採取と調製をまとめた。

1. 採取時期は5月〜6月。6月に採るというところも多い。とりやすいのは6月に入って大きく葉が展開している時期だろう。5月では小さい。葉は卵の大きさくらいとも、もう少し大きなものとも。今回はバラバラの大きさで採った。葉が大きすぎると食すときに、くだきにくいのではないか、あるいは煮沸の時間がより長くなるのではないか。一方で小さすぎると、味や香りが薄くなることもあるだろう。

2. 調製は、採ったその日に煮沸すること30分。その後一晩おいて、水でさらして、日干しする。6月後半の暑い日であれば、1日でパリパリに乾く。灰や重曹を加えて煮た方がよかったのか、まずはそこが試される調理編は、近日実施予定。

 

クサギ雑録

火入れの計画が流れてしまい、ひたすら草刈りを続けるなか、とても目につき気になる木がある。ひとつはホオノキ。高木になるものであるし、葉が目立つので、できるだけ切らないようにしてきた。それでも切ってしまうものだが、ここ2年で生き残ったものはぐんと背を伸ばした。そしてもうひとつがクサギ。とくに夏を過ぎてから目立つようになった。こちらは低木であるし、伐採地が森になっていけば消えていくものだろし、かなりの数にのぼるので、あまりに気にはとめていなかったものの、背丈をこえるものが出てきて、こんなにあったんだと驚くほど。

臭木と書くように、臭いというが意識したことはない。花の香りはジャスミンにも似てよい香りである。葉をとろうとすると臭いのだろう。
さて、以下は書きかけではあるが、公開してのち加筆していきたい。

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■広島県北にあったクサギナの食慣行

クサギナの食べ方についてもっとも詳しく書かれているものは、手元の資料では、『聞き書広島の食事』1967,農文協。神石郡油木町の聞き取りに「季節素材の利用法」のひとつとして出てくるほか、救荒食として県全域に見られた食慣行としてあげられている。前者の抜粋は以下。

くさぎな(くさぎ) とって帰ると、すぐに大釜でさっとゆでて水にとり、固くしぼってむしろに広げて干す。二日くらい日に干すとからからに乾く。これを缶や袋に入れて保存しておき、味噌汁の実やだんご汁の具、混ぜ飯の具にして、年中食べる。炒め煮も喜ばれる》

後者についてだが、明治までの救荒食として、くずだんご、ひえだんご、じょうぼ飯(りょうぶ)、たんばもち(ヤマコウバシ:クロモジ属)、笹の実だんご、どんぐりのだんご、以上6つをあげた次に、昭和初期の食の知恵のなかに出るのだ。
いずれも救荒食というよりは、主食を補う日常の食としてである。クサギナとリョウブはならべて挙げられることが他の地域では多いのだが、クサギナはより新しい食材ということだろうか。山の植生変化などとも関わりがありそうで興味深い。

くさぎな汁 くさぎなの若芽を摘み、ゆでてあく抜きしたものをそのまま汁に入れるか、乾燥保存して使う。一年たったものがおいしいといわれる。粃やくず米の粉でつくっただんご汁に入れたり、白あえにして食べる。》

くさぎな汁のほかに挙げられているものは、大根葉のぞうすい、あずりこ、かんころ、うけじゃ、かもち、である。これだけではなんのことかわからないだろう。そう、大事なものはそういうものだ。思い切ってすべてあげておく。

あずりこ 白菜や大根を切りこんで、味噌または醤油味の汁をつくり、これにそば粉をふりこんだ料理である。「あずる」というのは、神石郡で「補給」という意味に使われる。》

そば粉のふりこみ方が気になる。そばがきとは違うし、つぶ食でもない。が、粒で粥のように食していたかたちの残存か、などと。

かんころ さつまいもは、そのまま蒸したり焼いたりして食べるほか、かんころにして保存しておき年中食べる。かんころは、さつまいもをそのままか、皮をむいてごく薄い輪切りにし、天日で乾燥したものである。さつまいもの堀りだち(堀りたて)につくるよりは、年が明けてつくったほうがうまい。このかんころは、春先から新しいいものとれる九月いっぱい、夏の暑い時期を中心に食べる。》

晩冬に天日乾燥する(できる)のは、山間部とはいえ山陽の気候がなせるものか。

うけじゃ かんころは、そのまま食べてもよいが「うけじゃ」にして食べることもある。ささげまたは小豆一合に対してかんころを五合くらい使い、ひたひたの水でやわらかく煮てきんとんのように仕上げる。塩で味をつける。暑いときは、冷たい水かお茶をかけて食べる。》

かもち 「いかわもち」がなまってこう呼ぶ。さつまいもの皮をとり、かぶるほどの水を入れてやわらかく煮る。水が少し残っているときにだんご麦(もち麦)の粉をふり入れ、すり棒(すりこぎ)でつぶす。ふたをしてとろ火で一〇分くらい蒸す。これをもちにするときには、よもぎを入れることもある。また、さつまいもにもち米やもち米の粉と小麦粉を混ぜてつくる人もいる。

かんころ、うけじゃ、かもち、すべてサツマイモの料理である。この芋の普及が、いかに救荒食として他に抜きん出ていたかを物語ってもいると思う。

さて、同書には薬効のあるものがあげられてもいるが、そこでもクサギナは出てくる。梅、青松葉、にんにく、はみ、などとともに。やや記述がくわしくなり、採取時期が初夏であったり、保存がゆでてから乾燥させることであったり。また、冬から春のふだんのおかずとして使うものだが、薬としても使用するとのことで、その際には「くさぎな汁」だという。苦味が腹によいとされ、食べすぎの際の整腸剤、虫下し、そして疲労回復にきくのだと。つくり方の一例もくわしいので、ひいておく。

《くさぎな汁のつくり方の一例は、まず乾燥したくさぎなを一日くらい水につけてもどし、しぼって一にぎりくらいを小さく切っておく。また、水につけた大豆を茶わん一杯用意して切りきざみ、くさぎなと一緒になべに入れ、大豆がやわらかくなるまで煮て、味噌仕立ての汁とする。》

農文協の聞書きシリーズは中国五県は手元にあるが、クサギナの記載があるのは広島県のみである。かといって、他県にないか、なかったかといえばそんなことはない。古い記録や調査などから大ざっぱにみるに、吉備高原をはじめ中国地方いたるところで多く見られた食である。ほか記録は四国、鹿児島、宮崎、奈良、静岡、で確認できる。

記録のみならず、特産として売り出しているのは、宮崎県椎葉村、岡山ではJAつやま、広島では庄原市比和町といったところ。レシピも豊富で、かつての救荒食を思わせるものから、豪華な晴れの食事でもあったことがわかる。おもしろい。
岡山県吉備中央町吉川の郷土料理、くさぎなのかけ飯。KBSの取材。

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■日原と横田のクサギナ

島根県内でわかる資料は限られるので、現在手元にある4つをすべてあげておく。

†. あえものとして食べるという「摘み草手帖」
宮本巌著、山陰中央新報のふるさと文庫で出ている標題の書籍は昭和53年の刊行。山陰地方の摘み草をまとめた名著である。そのクサギの項。
浜田市沖合にある馬島はかつて兎が離され、多くの草木が手当たりしだいに食されるなか、兎が口をつけない植物があることがわかった。それがクサギだという紹介のあとに、短く食し方がのっている。

《これほど臭いクサギの葉も、ゆでて(重)、水さらしにすると匂いがとれることを人は知っている。あえ物として食べる。》

†. 「日原町史・下巻」
 まず、村の生活ー救荒食の中に一行のみで簡略にこうある。

《クサギナの葉はいがいて川にさらして飯にまぜる。》

リョウボウの芽はいがいてさらし、干して俵に入れて保存しておくとあるが、クサギナではその記述はない。ただ、先にあげた『聞書き・広島の食事』と同様、おかずとしても食すのだから、利用意識は高いと思われるし、乾燥保存を旨としたことは変わらない。
採取は春。《待っていたように、芹、すい葉、こうがらせ、くさぎな等の若菜を採って汁の実・ひたしものにし、やがて蕗・蕨・ぜんまい・筍類が煮しめに出来ると共に、これを干して貯蔵した》。

†. 横田のクサギナ
 1968年刊の『横田町誌』。第七章教育と文化と生活のなかに山菜・野草・果実の簡略な一覧があってその中にクサギナがある。俗称クサギナ、本名クサギ、料理法としては油いためである。
1976年刊の『郷土料理 姫の食』は横田町食生活改善評議会が発行したものだが、提供部落:亀ヶ市として「くさぎの葉の油いため」があげられている。
作り方
1 くさぎの芽が四〜五cmくらいにのびた時にとってきてゆがく。
2 天火で乾かして保存しておく。
3 水にもどして、適当に切り、油でいためて好みの味でたべる。
勘どころ
乾燥したものを保存する場合、缶などに入れ湿気に充分注意する。

†. 飯南町のクサギナ
 2013年刊行の飯南町の植物ガイドブック』は、飯南町森の案内人会(教育委員会内)発行。この会は解散されたと聞くが、要確認。クサギはここでもクサギナと呼ばれていることがわかる。里山から山地の日当たりのよい所に広くはえる落葉低木。この特徴もどこにでも

1968年刊の『

……さて、つづきはまた。
資料として以下などをあげながら、乾燥商品が入手できればそれらの調理試食などもとりあげていきたい。
野本寛一「採集民俗文化論」

※2021年10月24日、備忘的加筆。

樹木シリーズ71 クサギ | あきた森づくり活動サポートセンターでクサギの項をみて、長野県や静岡県では「採り菜」と呼ばれたとあり、野本寛一が「採集民俗文化論」であげていた「といっぱ」とはそこからきているのかと。よってここに記しおく。

若葉は山菜・・・クサギは若葉を山菜として食用にしている。6月頃、採取した葉を熱湯で塩茹でして流水にさらしてアクを抜き(灰や重曹でもOK)、油炒めや佃煮にして食べる。茹でてから乾燥すると保存もできる。西日本では「臭木菜」、長野県や静岡県では「採り菜」と呼ぶ。禅寺の労働修行でクサギが利用されたことから「ボウズクサイ」、「オボックサイ」と、お坊さんに結びつけた別名もあったという。

残暑きびしくも森の中はすずしく、山ウツギの花かおる

「今日は山へは行かれますか」
「いやあ行けません。倒れますわ」
と、言ってはみるものの、じつは行っている。山というと、眺めのよい景色のある登山でのぼるような山をみなさん、イメージされるようだ。が、山もいろいろ。標高250〜400mくらいのところでも、少し中に入ってしまえば、猛暑日でもすずしいものだ。たいがい。標高600m超の山を背後にもつところや、水を保持しているような水源の山の水脈があるところ、などが条件だろうと思う。

 昨日も、この林のなかで、古竹や倒れかけた杉を片付けたりしたりしていた。時刻は11時から13時ごろ。外の気温は35℃前後だったが、汗だくにまではならない。ここは林縁に近く、ふつうは涼しくはないのだが、この竹林のおかげだろうか。そして水源地からの水脈がこの下を通っているはずで、そうしたことも大きいのだと思う。荒れてはいるが、気持ちよさがある場所だ。

 そして、この竹林が果てるところに咲いていて、気になっていた、ジャスミンの香りがする木の花。調べてみると、クサギの花だ。木の野菜としてかつては食されていたらしい。佃煮がうまいともある。木の実は青の染料になる。媒染剤なしでも染まるのだとか。秋に春にためしてみたい。

出雲国産物帳でみてみれば、おそらく「山ウツギ」がクサギに相当する。なぜ山のウツギと呼ばれていたのか。境界木としての徴をおびていたのか。気になることいろいろ。なにごとも、少しゆとりをもってすすめると、風景の映り方が豊かになるものだな。

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