木次の土手のソメイヨシノは今日明日で満開になるだろうか。花見に訪れる車が臨時の駐車場にも並んでいるのがみえた。平年よりも数日早い開花のようだが、確かなことはようわからん。
古来、春の開花のタイミングというのは農事にとって重要なサインであった。指標となる花の木がいくつかはあったものだとはいくつかの民俗学の書に記されてはいるものの、個別具体的なことを耳目にしたことはない。これからもないのか、あるのか、あったらいいなとは願っている。あるいは自らがつくれればそれもうれしい。
種を植える、苗をおろす、土を起こす、水を田に入れる、それらひとつひとつの行為は、早すぎてもならず、遅すぎてもならず、しかもその適期は短い。天候にも恵まれ、災難にもあわず、よき稔りを迎えるための、”勝負”とでもいえようか。
そう思ってみれば、春はチューニング、音あわせの時間なのだ。舞台にはさまざまな草木がそれぞれの音を奏でるためにあがってくる。サクラもその中のひとつだが、ツクシ、ホトケノザ、ワラビ、フキノトウ、タケノコ、スミレ、……それぞれが土の中から、木の芽から、舞台にあがってくるのだ。はじけでるように。
Spring has come!
昨日は、この目で見ることのなかった演奏者のひとりを豆腐屋さんからの帰路、峠の崖地でみつけた。
ウバユリである。
その根は澱粉質を含み、食糧のひとつとして重要なものであった「らしい」。
日本国語大辞典にはこうある。
《夏、茎を出し、その頂に緑白色で長さ七〜一〇センチメートルにもなる漏斗形の花が横向きに咲く。地下に卵形の鱗茎(りんけい)があり、良質のでんぷんがとれる。葉は楕円状心臓形で先がとがり、長さ約二〇センチメートル。若葉は食用となる。かばゆり。ねずみゆり。学名はCardiocrinum cordatum》
若葉、すなわち、今土から出ているこの鮮やかな葉だが、アクが強いものの、食べられるというのだから食べてもよいのだが、なにせ量が少ない。見守りつつ、来年増えるようだったらそのぶんをとってみたい。山の谷一面にこの花が咲く景観をみることができたのはいつの時代までであったろうか。古名をがはゆり(がわゆり)と呼ぶと同じ辞典には記されている。樹陰で湿度を要する植物であるから、ギボウシ=ゴロビナ=ウルイともその生存条件は近い。
ともあれ、これから、ゆっくりみていこう。