本とスパイス記録と記憶016−1〜やまたのをろちはワインを飲んだか?

 金曜の会の記録と記憶を何回かにわけて記す。メモとしてここにおき、多少整理したものを樟舎にあげる予定。

○やまたのをろちはワインを飲んだのか〜マイケル・ポーラン『人間は料理をする・下』etc.(本の話#0016)

 マイケル・ポーラン『人間は料理をする』の話が少なかったともいえるが、そうでもないともいえる。なぜかを少し述べておく。

◆本の内容について語ってはいない

 たとえば映画や小説の粗筋を話すのは、読んだ人・観た人を対象にしないと成立しないので、これはなし。またノンフィクションの場合でも、その著者になりかわって何かを語るこできない。それは当該書籍本を買って読んでくださいということ。映画であれば上映権を買って上映会を開くということだ。

◆余談1:著作権

 現下、国内で主だって権利行使されているのは版権、複製権(copyright)である。つまるところ財産権。元来3つわけられる権利をとりまとめて著作権と呼ばれるものでその3つとは以下。

・著作人格権(公表権、氏名表示権)

・同一性保持権

・財産権(複製頒布権、譲渡貸与権、口述等伝達権、etc.)

◆余談2:図書館での読みかせは?

 書協などが出しているガイドラインはわかりやすくていねいである。

 http://www.jbpa.or.jp/guideline/readto.html

 が、著作権の法理からすれば、この示し方はいかがなものか…。と思う。

 すなわち、無償のボランティアならばだいたいOK、営利活動なら必ず許諾をとる(利用料が発生)という示し方。財産権の観点からすると、無償だろうが有償だろうが、関係はない。むしろ無償のほうが侵害の度合いを強める可能性が高いことは、図書館での書籍図書貸出について書店での売上を下げている要因としてちょっとした紛争・議論が発生していることからも明らかである。

 ことは文化文明の根幹にかかわることであって、一私人一企業一業界だけの問題ではない。

 そう。

 朗読として行うことは、法的には許されていないということは明記しておいてよい。

 そして、朗読なのか、引用なのかは多くの場合、灰色である。

 日本の著作権法では、灰色については「慣行」を基準にする旨記されているので、なんにせよ言論にかかわる新しいことを始めようとする際には、ひとつひとつが引っかかってくるものだ。はじめて1年ほどしかたっていないこの小さな会であっても、だ。だからこそ、法理について熟考しくだしたひとつの基準が、会に参加した方が「その本を読みたくなる」ことを念頭において展開している。そういう意味では、ぜひ!という本でもないことは確か、かな?

◆”運動”の原理主義化への牽制もあるM.Pollanの言説

 マイケル・ポーランはベストセラー作家といっていいが日本での売れ行きは今ひとつなようだ。

『雑食動物のジレンマ』(2009年,東洋経済新報社)が代表作なのだが、その要約版『これ、食べていいの?: ハンバーガーから森のなかまで―食を選ぶ力』(2015,河出書房新社)も全米ミリオンにしては話題にはならなかった(たぶん)。また『フードルールー人と地球にやさしいシンプルな食習慣64』(2010年,東洋経済新報社)、『ヘルシーな加工食品はかなりヤバい―本当に安全なのは「自然のままの食品」だ 』(2009年、青志社)という一連の著作は、食の産業化に対する抵抗を訴えており、”運動化”の波にのって「売り物」になっている。そうしたなかで、今回の書籍の取材もできたのだろうが、「急進的」活動家や団体にはやや辟易しているような言い方が多々ある。

 また、これまでの”運動”路線とは異なり、中立的というものでもないが、反・巨大食産業というトーンは薄い。

……つづく。。

 

本の記録〜2019年1月7日

午前には青空がひろがった。気温も10℃近くまであがり、冬が終わったかのような安堵感さえ覚えたほど。明後日に寒波到来とのニュースがそらぞらしい。玄米の昼食を食べた後、斐伊川の北側土手を通って出雲方面へ。いつも通る上津の道とは趣が大いに異なる。山の植生やら景色やら家々の佇まいやら。何より車とすれ違わないことからくるものか。木次から20分ほどで出西窯のル・コションドールにつく。しばしお茶を喫したのち出雲市立中央図書館で下記の本を。帰路はいつもの上津の土手を通った。いがやの堰に白鳥が四羽。あの白をみるとやはり冬なのだなあと思う。

†. 川上正一著,伊沢正名写真,2013『森の不思議な生きもの 変形菌ずかん』(平凡社)
†. 藤原俊三郎,2003『堆肥のつくり方・使い方』(農文協)
†. D.モンゴメリー,A.ビクレー『土と内臓―微生物がつくる世界』(築地書館)
†. 大原健一郎ほか著,2016『合本完全版 印刷・加工DIYブック』(グラフィック社)
†. 原武史,2015『皇后考』(講談社)
†. 工藤極,2018『陛下、お味はいかがでしょう。ー「天皇の料理番」の絵日記』(徳間書店)
†. 高楼方子, 2016『ココの詩』(福音館)

本の記録〜2019年1月6日

安来、米子方面へ。どんよりとした空の下を走る。いつもの日曜日より車は少なかったか。
とある打合せでインドのタラブックスの話を出したところ、「私、持ってますよ」と。「The Night Life of Trees」(夜の木)である。あぁ「世界を変える美しい本〜インド・タラブックスの挑戦」展が広島に来てくれますよにと願いつつ。
ビュッフェ美術館での展示模様(写真)がウェブサイトに出ていて、夜の木のダミー版を見ることができる。
こちら。そして、いくつかのリンク先などを。
◆タラブックス
◆タムラ堂

というわけで? シルクスクリーンと手製本の試作をはじめる。道具・材料を揃えていきます、じょじょに。
さて、米子をあとにして帰路。午後4時少し前に県立図書館に入る。30分程度の滞在。開架にはシルクスクリーン印刷について書かれた本はなかった。閉架にはあるのかもしらん。貸出延長も含めて借りた本は以下の6冊。

†.アランナ・コリン著,矢野真千子訳『あなたの体は9割が細菌―微生物の生態系が崩れはじめた』(2016,河出書房新社)→版元頁
†.大園享司,2018『生き物はどのように土にかえるのかー動植物の死骸をめぐる分解の生物学』ペレ出版)→版元頁
†.T.A.シービオク,J.ユミカー.シービオク,富山太佳夫『シャーロック・ホームズの記号論』(1994,岩波書店)→千夜千冊〜0508夜
†.小泉武夫,1984『灰の文化誌』(リブロポート)
†.小泉武夫,1989『発酵―ミクロの巨人たちの神秘』(中公新書)→amazon頁
†.『素材を活かした手製本の教室』(スタジオタッククリエイティブ)

本の記録〜2018年12月15日

島根県立図書館にて。半月ほど前に借りたものなども含めて。

◆借りた本
†.現代思想臨時増刊,2016.6『微生物の世界』(青土社)
†.D.モンゴメリー,A.ビクレー『土と内臓―微生物がつくる世界』(築地書館)
†.小泉武夫,1984『灰の文化誌』(リブロポート)
†.小泉武夫,1989『発酵―ミクロの巨人たちの神秘』(中公新書)
†.美篶堂,2009『はじめての手製本―製本屋さんが教える本のつくりかた』(美術出版社)
†.美篶堂著・本づくり協会監修,2017『美篶堂とはじめる本の修理と仕立て直し』(河出書房新社)
†.マイケル・ポーラン『人間は料理をする・下』(Michael Pollan 2013,Penguin Press,Cooked: A  Natural History of Transformation/2014,NTT出版)
†.金子信博,2007『土壌生態学入門』(東海大学出版局)
†.保立道久,2012『歴史のなかの大地動乱―奈良・平安の地震と天皇』 (岩波新書)

【釈】
◉マイケル・ポーラン『人間は料理をする・下』
マイケル・ポーランはジャーナリストのようでありそうではない。そうとらえないほうがいいという意味で。大学教授、料理研究家、園芸家…複数の顔をもつ? それもこれも、彼が「食」に対してラディカルな問をもって向かうからだ。工業化された製品としての食が大量に市場に供給され、私たちはそれを「選択」し「消費」する。料理をする時間をけずり、また料理をしないのに、わたしたちは料理をつくる番組に釘付けになる。それはなぜか?ーーそれはこの書籍の邦題にあらわれている。人間は料理をする動物だから。
また、この本はわたしたちに「出会い」を用意するものでもある。食べ物のことで、世間の流れに違和感を抱いている人にとって、とびきりの出会いが。

「第4部 土〜発酵の冷たい火」はこうはじまる。
《死が身近に迫っていることについて、しばし考えてほしい。いや、対向車がハンドルを切り損ねるとか、ベビーカーに爆弾が仕掛けられているといったことではない。熟した果実の皮の上にいる大量の酵母菌のことだ。彼らはその皮が破れたら甘い果実に侵入して腐らせようと待ち構えている。あるいは同様の目的を持ってキャベツの上で待機している乳酸菌や、さらには、わたしたちが連れ歩いている目に見えない微生物のことを》
発酵の力とは分解する力であり、そのゴール(目的)は有機体の死である。有機物を無機物へと変えていくこと。そしてその死をもたらすものは目に見えない小さな無数の存在として、世界の中に偏在しているし、私たち自身の内部にも皮膚の上にもあって、いまかいまかと待ち構えているのだと。
この想像力と抽象力でもって、発酵というテーマが語りはじめられる。

※2019/01/05訂正加筆

本の記録〜2018年9月30日

島根県立図書館にて。台風24号・チャーミーが巻き起こす風雨がしだいに強まるなかで3時間程度滞在。

◉<a class=”keyword” href=”http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B3%C1%CC%DA%C2%BC”>柿木村</a>誌編纂委員会,S61.『柿木村誌』自然編:宮本巌,歴史編:岩谷建三,民俗編:酒井薫美(柿木村)
◉<a class=”keyword” href=”http://d.hatena.ne.jp/keyword/%B8%BD%C2%E5%BB%D7%C1%DB”>現代思想</a>2017.3月臨時増刊号,総特集「人類学の時代」(青土社)
◉<a class=”keyword” href=”http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CA%BF%B4%E4%CA%C6%B5%C8″>平岩米吉</a>,1992『新装版・狼ーその生態と歴史』(築地書館)
◉森山徹,2011『ダンゴムシに心はあるのか』(PHP)
◉岡ノ谷一夫,2010『さえずり言語起源論ー新版 小鳥の歌から人の言葉へ』(岩波書店)

ほか、あたったものをあげておく。
◆松浦章,昭和18『焼土の肥効と利用法』富民協会……一部複写
◆古長敏明,1966『大分県椎茸史』(大分県農業振興運動協議会,農振教養シリーズ;3)……一部複写

未来の思い出とは〜『あなたの人生の物語』(本の話#0008)

年内刊行予定の『本とスパイス』。出せるかどうかはともかく。出す意思と日々の営みをもって進んでいることは確かです。そのひとつが夜のカフェで今回8回目となるこのトークライブ。

今回はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』をとりあげます。

あなたがカフェを出たのは、夜の9時半をまわっていたのだけど、これまで味わったことのない知的な充実感で、心がいっぱいになっていたことでしょう。

SFってマニア向けで面白くないかもとか、時間の話なんて難しそうだとか、そんな不安にまどわされることなく、直感的に参加を決めたあなたの判断は大正解だったわけ。それでも、この日知った物理学の原理が、避けられないあなたの運命を変える力になろうとは、思いもしないでしょうね。

………こういう書かれ方を下手に真似るしかないような、複雑でありながら美しい織物のような作品です。

どう扱ったものか。

あと2週間。精出してとりくみましょ。

参加申込などはこちらから。

◉未来の思い出とは〜『あなたの人生の物語』(本の話#0008)

虹と市と水と(1)

木次のカフェ・オリゼで月に一度もうけている「本の話」。今回は安間清『虹の話』をとりあげる。1978年に著された比較民俗学の論考であり、虹の民俗についての論文ではまず参照される基本的文献でもあり、虹の民俗学の嚆矢ともいえるだけの「何か」をもっている。これまで「読む」ということを会の中であまり話すことはなかったのだが、今回は課題としてみる。

そして、この日記をもって試金の石としたいのだ。

まずは、告知のための案内文を以下にのせて(1)とする。

ーーー

あなたは虹が空にかかるのをみて、どんな気持になりますか?

そわそわする。

わくわくする。

消えないで〜とあせる。

ラッキーな気持になる。

はかなさを感じる。

清々しい気持になる。

……人それぞれ、さまざまだと思います。

さて、時代を千年ばかりさかのぼって、平安時代の日本に行ってみましょう。この時代の人々、とりわけ庶民は、虹が立ったら、そこには市をたてねばらないと強く感じたらしいのです(貴族にはその感情はもはやなかった)。

長元三年(1030)七月六日に、関白家と東宮家に虹が立った。世俗の説にしたがって、売買のことが行われた。(日本紀略

応安五年(1372)八月四日ならびに八月二四日、興福寺金堂の北東の角から虹が吹き上げ南西にかかった。これには満寺が驚嘆した。これにより二五日から三日間、市がたったそうだ。(後深心院関白記)

なぜ中世の日本人は虹が立ったら、そこに市をたてて売買を行わねばと感じたのでしょう。

民俗学歴史学、経済学、人類学、国文学……、何人もの研究者たちが、そこに踏み込み、魅力的な解釈を提示してきました。

案内人・面代が『虹の話』とともにそれらの解釈を踏まえ、集まった皆さんとともに考えてみます。

自然とは。

人間とは。

時間とは。

今を生きる私たちと、千年前、この日本に生きた人たちとは、虹をめぐってまったく異なる感覚を抱いていました。その違いに着目することよりも、つなげるものに着目したい。それは、売買=買い物をするという行動とそれにまつわる感情、そして「水」に対する恐れと願いにある……、はずですが、はてそこまでたどりつけるやいなや。

乞うご期待。

虹と市と水と〜『虹の話』(本の話#0007)

◉主 催:ナレッジ・ロフト「本とスパイス」&カフェ・オリゼ

◉日 時:7月28日(金)

開 場…18:30

トーク…19:00〜20:20(20:30〜22:00 食事とカフェの時間)

◉場 所:カフェオリゼ(木次町里方)

◉参加費:2,500円(スリランカカレー/ドリンクセット含)

◉定 員:12名

◉申 込:「虹と市と水と」参加希望として、カフェオリゼ宛facebookメッセージか下記のメールアドレスまでお名前とご連絡先をお知らせください。返信のメールをもって受付終了とさせていただきます。メールはこちらまで anaomoshiro★gmail.com(★⇒@)

ーーーー

以上。

本の話〜心の闇と光とー下條信輔『サブリミナル・マインド』

第4回となる「本の話」です。

心の闇と光と〜サブリミナル・マインド(本の話#0004)

◉主 催:ナレッジ・ロフト「本とスパイス」&カフェ・オリゼ

◉日 時:4月21日(金)

開 場…18:30

トーク…19:00〜20:30(20:30〜22:00 食事とカフェの時間)

◉場 所:カフェオリゼ(木次町里方)

◉参加費:2,500円(スリランカカレー/ドリンクセット含)

◉定 員:12名

◉申 込:「心の闇と光と」参加希望として、カフェオリゼ宛facebookメッセージか下記のメールアドレスまでお名前とご連絡先をお知らせください。返信のメールをもって受付終了とさせていただきます。メールはこちらまで anaomoshiro★gmail.com(★⇒@)

◉内 容

「本とスパイス」提供の、月刊ペースで1冊の本を巡るトークライブ。第4回目となるお話は、下條信輔『サブリミナル・マインド』。

今回は「私の知らない私の心」の話です。

心の中を探って、知らなかった本当の心がわかるようになる……という話ではありません。むしろその正反対、かもしれない。「心とは内面にある秘めたもの」ではなく、「私の心は私自身のものだ」とは到底おもえなくなります。

どういうことでしょう。

「それって無意識のことでしょ」

いえ。違います。無意識も含みますが、潜在的な認知過程を解説したものです。一般にいう無意識は意識と対になったもので、ちょっと悪さもするけれどあくまで意識が上位にあることに変わりはありません。潜在的な認知過程は意識下にあっても働いているものです。

わかりにくいと思います。そう。この本は私たちの、「心」に対する常識的観念を、ガラガラと突き崩すものとして、20年前に話題になりました。稀代の読書家にして博覧強記の評論家(テレビでもおなじみ)にインタビューした際、愚問とはいえ、これまで読んだなかでもっとも衝撃を受けた新書を一冊あげてほしいと問うたところ、この本を真っ先にあげたほど。

読みやすい=わかりやすい書ではありません。もとは東大教養学部の心理学講義を新書としてまとめたもので、発刊は1996年ですが今をときめく認知科学の射程や論点を満遍なくおさえてある教科書的新書です。

心理学の講義が元ですので、数多くの実験や学説が次から次へと登場します。新書のなかでも十分に単純化類型化されていますので、できるかぎり要約はしないで取り上げたいと思います。しかしそうするとあまりに時間が足りない。

そこで、参加者の声もききながら、どこかで切り上げることにします。そして次に副読本(サブテキスト)として、中井久夫『「つながり」の精神病理』をとりあげ、ふたつの本の重なるところから、お話をまとめていこうと考えています。たとえば、、、、。

「今の時代に欠けているのは、打算的理性的関係であり、絆やつながりは解いていくのがよい」と。

人間関係は意識できる認知レベルと意識にのぼらない閾値化のレベル、両者がバランスよく相互作用して健全な形成がはかれるものですが、現代社会は後者のサブリミナルな作用が強すぎるのです、少なからぬ人にとって、おそらく。

うまくお話できれば、意識と無意識が対立分断しているものではなく、お互いが協調し相互に助け合いながら、人の心と絆と社会をつくっているそのダイナミックな姿がエキサイティングに理解できる場となるはずです。心の闇は光を必要とし、光もまた闇を必要とする、相互に通じあっていることが、次なる時代の希望であることを、先端の認知科学をふまえて展開しましょうぞ(目標)。

◉案内人紹介

面代真樹(おもじろまさき) 季刊『本とスパイス』を創刊準備中。今回のテーマは「心」です。下條信輔氏には2008年刊の『サブリミナル・インパクト』もありますが、今回は基本編として”マインド”の方をとりあげます。「心」をテーマとして、こうした認知科学の立場から書かれたものと精神医学の臨床現場位置から書を、今後ともとりあげていきたいですし、トークできる方(案内人)も求めています。なにとぞよろしく。