ウツギ断想

 夕闇の道もたどらじ賤の男が山田の岨にうつぎさくころ 卯の花のuと、utの呪法に同じものを見た折口信夫が、最初に論じたテキストは、鯉幟の先端に残存する髭籠に精霊の依代を見出そうとしたものだった。 utの呪法とは撃つこと。土を敲いて土の精霊を呼び醒す事。それは杖を大地にさし、根を生じさせる技とも通じるのだが、ウツギはそれがたやすかったがために、田や畑の境界木ともなり、山のそこここにその残影がある(ように、最近みえてきた。歳をとり向こう岸に近づいてきたからだろうか)。 五月の鯉幟に、正月の門松、七夕の竹、それら杖ー柱を土地にたてることは、神に認められた占有の印として、国旗から商店街の幟まで、今でも人の心と行動をしばりつづける古層の心理であろうが、はて、鯉幟が青空に泳ぐ姿もずいぶんと減ってしまったようで。

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